東京五輪中止署名の数え方-正しい助数詞は「筆」?「人分」?-

署名の数え方

東京五輪に反対する弁護士の宇都宮健児氏と、賛成する評論家の竹田恒泰氏が、ともにオンライン署名サイトで支持を求め話題となっていますが、関連記事を眺めていて軽い違和感を覚えました。

東京五輪の中止を求めるネット署名が広がりを見せる中、同じ署名サイト「change.org」上で、評論家の竹田恒泰氏が5月8日、開催を支持する署名を立ち上げ、開始5時間で署名が8000筆を超えた。
(中略)
宇都宮健児弁護士が展開している反対署名は5月8日22時30分時点で28万筆を超え、かなりの勢いを見せている。

東京五輪の開催を支持するネット署名も開始「日本の国際的な責務」

違和感の正体は、署名の数に付ける「筆」という単位です。署名の助数詞って「筆」だったっけ?「人分」だと思っていたし、オンライン署名サイトでの単位は「人」となっているけど?という疑問が本日のお題。

助数詞とは、数字の後ろに付けてものの数量をあらわす品詞です。「1個」「1枚」などが代表的ですが特殊なものもあり、時に「たんすは一棹(さお)、テントは一張り(はり)とかって数えるのややこしいよねー、もう全部『個』でよくない?」という投げやりな気分を引き起こします。

私は情報の理解・発信の妨げになるようなら、本来の助数詞にこだわる必要はないと考えていますが、「あの人は日本語を知らない」と思われるのも癪なので、可能な限り本来の助数詞の使い方を押さえておこういうスタンスです。

なので、東京五輪開催に反対/賛成のオンライン署名に関するニュースで、署名が何筆(読み方は「ひつ」)とフレーズに出くわし、軽く動揺したわけですが、過去の署名一般のニュース記事を検索してみたところ、降ってわいてきた助数詞ではないようですね。

話題になった愛知県知事リコール署名のニュースでも「筆」という助数詞が使われていました。これはうっかり。

それにしても、約43万5000筆のリコール署名のうち、8割以上の約36万2000筆が偽造で無効の疑いがあるという前代未聞の不正は、誰がなぜ行なったのか。

「愛知県知事リコール不正署名」はなぜ起きた? 前代未聞の事件の深層| 現代ビジネス(2021.4.15)

ただ、ほぼ同じ頃の学術会議改革の要請撤回を求める署名提出のニュースでは、署名の数は6万2000「人分」と数えられています。

日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、元学術会議会員で元気象庁気象研究所室長の増田善信さん(97)が19日、6人の任命と、政府による学術会議改革の要請撤回を求め、約6万2000人分の署名を内閣府に提出した。

学術会議「任命拒否撤回を」 「戦時中のような日本」危機感 97歳黒い雨研究者 6万人署名|毎日新聞

はて、媒体によって数え方が異なるのか?ということで「署名 数え方」で調べてみたところ、読売テレビの道浦俊彦氏のブログ記事がヒットしました。2016年に開催されたメディア関係者の会議で、署名の単位として「筆」が出てきた際の対応が議題に上ったようです。

新・ことば事情6445「署名の数え方2」|道浦俊彦TIME

この記事に登場する各社の回答を見ると、どうやら伝統的な署名の数え方が「筆」だったわけではなく、むしろ誤用とする向きもあったようで。

そして、市民団体などによる署名の数え方として「筆」の使用が増えており、収録する辞書や書籍も登場しているので尊重はするが、「○人分」でよいのではないか、というのが大手新聞・通信各社の立場であったようです。

その後リリースされた『毎日新聞用語集2020年度版』の「助数詞」の欄に「署名」がないところを見ても、少なくとも「○人分の署名」と言って、「日本語を知らない」という扱いを受けることはなさそうですね。

むしろ「○筆の署名」の方が歴史が浅いので、署名運動の内容自体を問題にしたい場合、「五輪反対のオンライン署名が30万人分を超えそうだよ!」などという方が、話がスムーズでいいかもしれません。

ちなみに、私は五輪開催には反対です。少なくとも竹田氏の主張にはまったく共感できません。開催が「国際的義務」などというのは初耳ですし、医療の逼迫で入院待機中に亡くなる人が増え、ワクチン接種も立ち遅れている中、五輪には「最高レベルの徹底した対策」が取られるとしたら、「希望と勇気」どころか絶望と無力感しかないでしょうよ。

タイトルとURLをコピーしました