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「スポーツの力」って何?五輪界隈にあふれる意味不明語の真意を元官房長官直々にご教示いただきました

スポーツの力 時事
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朝から非常にすっきりした気分です。『まい日』の小秋です。いや、何かといいますと、ここ数か月抱いていきた「スポーツの力」の意味とは何か?という疑問、もやもやの一部に、答えが与えられたような気がするからです。

五輪が近づくにつれ、頻繁に目にするようになったこの言葉。スポーツ庁のサイトは、リンク先を見ればわかるとばかりに明確な定義をしてくれていないので、困っていたんですよね。

乗り越える ~「スポーツの力」をすべての子供たちへ~:スポーツ庁

政府や組織委の皆さんの会見での発言にも、「スポーツの力」はたびたび登場しましたが、どうも掴みどころがありませんでしたし。

ここでちょっと、ここまでの流れを振り返ってみましょう。まずは、菅首相の6月2日の会見での発言。記者団からコロナ禍での五輪開催の意義を聞かれて。

菅義偉首相は2日夜、新型コロナウイルスが感染拡大するなかで東京五輪・パラリンピックを開催する意義について、「五輪はまさに平和の祭典だ。一流のアスリートが東京に集まり、スポーツの力を世界に発信をしていく」と述べた。首相官邸で記者団に語った。

出典:首相「スポーツの力世界に」 コロナ禍で五輪、意義強調(朝日新聞デジタル)

なお、会見に先立つこの日の衆院厚生労働委員会では、コロナ分科会の尾身会長が、「普通は(五輪開催は)ない。このパンデミックで」「五輪をこういう状況のなかで何のためにやるのか」などの発言をしています。記者から首相への質問も、尾身会長発言を受けてのものでした。

その2日後の6月4日には、丸川五輪担当相が閣議後の会見で、「スポーツの力を信じてやってきた」と発言。この際丸川氏は、2日の尾身会長の発言を「別の地平」として切って捨てています。

「我々はスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいというのは私の実感」と、五輪開催の意義を強調した。

出典:丸川氏、尾身氏発言に「全く別の地平から見てきた言葉」(朝日新聞デジタル)

ちなみに「別の地平」は個人的にぐっとくるパワーワードでした。「~づらい」の用法にかこつけて、一記事書いてしまったぐらいです。
「~にくい」「~づらい」の違いとは?丸川五輪担当大臣の「通じづらい」発言の文法的意味を考える|まいにち日本語.jp

それはさておき、7月6日には日本代表選手団の結団式がありました。決意表明に「スポーツの力」という言葉が入っています。

日本オリンピック委員会(JOC)は6日、東京都内で東京五輪に臨む日本代表選手団の結団式を行い、選手団主将を務める陸上男子100メートル代表の山県亮太(29=セイコー)が「スポーツの力を信じ、チームジャパンの一員として全力で戦い抜くことを誓います」と決意表明した。

出典:山県亮太主将「チームジャパンの一員として全力で戦い抜く」日本選手団結団式で決意表明(スポニチ Sponichi Annex)

残念なことに、この結団式のすぐ後、7月8日には政府や東京都、IOCらによる5者協議で都内の会場の無観客開催が決まってしまいました。しかし「スポーツの力」はそんなことで失われるものではないようです。5者協議後の会見での小池東京都知事の発言。

宣言下での開催意義について「コロナ禍においていろいろな思いをしてきた人がいる。各国でも感染状況が違いますが、安全安心な大会を開き、スポーツの力が世界中に働き大きな励みになればいい」と語った。

出典:小池知事「スポーツの力が世界中の励みになれば」5者協議にリモート出席 – 五輪一般 – 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ

そして迎えた開会式。大会組織委員会の橋本聖子会長がスピーチで、「アスリートの皆さん」と呼び掛けて。

自信を持って舞台に上がってください。今こそ、アスリートとスポーツの力をお見せするときです。その力こそが、人々に再び希望を取り戻し、世界を一つにすることができると信じています。世界は皆さんを待っています。

出典:オリンピック開会式 組織委 橋本会長・IOCバッハ会長スピーチ | NHKニュース

バッハIOC会長も、畏れ多くも天皇陛下をお待たせしてのスピーチで「スポーツの力」を使用。

205の国と地域のオリンピック委員会と難民選手団のアスリートたちは、選手村の一つ屋根の下で生活しています。これが、ひとつになるスポーツの力です。これは、連帯のメッセージ、平和のメッセージ、そして困難から立ち上がる力のメッセージです。これは、私たちのさらなる旅に希望を与えます(引用同上)

なお、英語で「スポーツの力」は、まんま「power of sport」であるようです。上記引用部分の原文をIOC公式サイトより。ふんわりしているのは日本語訳の問題かと思いましたが、英語で読んでもやっぱりポエムでした。

Finally we are all here together: the athletes from 205 National Olympic Committees and the IOC Refugee Olympic Team, living under one roof together in the Olympic Village.

This is the unifying power of sport. This is the message of solidarity, the massage of peace and the massage of resiliencs. This gives us all of us hope for our further journey together.

出典:IOC President’s speech – Tokyo 2020 Opening Ceremony – Olympic News

開会式後には、競泳の池江選手も「スポーツの力」を使ってコメントしています。

「自分が頑張って結果を出したい。スポーツの力をみんなに届けて、日本だけではなく、世界中がどんどんよりよい気持ちになってほしい」

出典:池江璃花子 希望の炎灯す「スポーツの力を」1年前国立でメッセージ 7・24夢舞台へ(デイリースポーツ online)

ということでここまで、主要な「スポーツの力」発言をご紹介してきました。これだけ皆さんがまるで自明のことのように口にする言葉の意味が理解できないのは、やはり私が子供の頃から「運動音痴」「運動神経なし」のそしりを受けてきた人間だからでしょうか。

自分なりにこの言葉を解釈しようとすると、「ボールその他の体育用具の使用や、球技等で課せられる連帯責任に伴う恐怖から人を著しく不安にさせる力」などとなるのですが、皆さんおそらくそういうことを言いたいわけではないでしょう。

しかし。そう思っていたところ、今日、あるニュースを読んでストンと腑におちる何かがありました。冒頭の「すっきり」はそのことです。「スポーツの力」という言葉こそ使われていませんが、少なくとも政府の皆さんが言っているのは、おそらくこれでしょう。ありがとう河村元官房長官。

このツイートの引用部分だけですと、分かりにくいので他の部分も引用しておきましょう。

新型コロナウイルスが感染再拡大する中での五輪開催に批判的な声があることには「五輪をやっていなくてもコロナが増えていたと思う」と主張し「五輪がなかったら、国民の皆さんの不満はどんどんわれわれ政権が相手となる。厳しい選挙を戦わないといけなくなる」とも語った。

出典:選手の活躍「政権に力」 五輪開催で自民河村氏 | 共同通信

なんと、「スポーツの力」とは、要は政権への批判をそらす力、選挙で勝つための力だったんですね。

もちろんバッハ会長はもう日本のことなど知ったこっちゃないでしょうし、選手の皆さんにはそれぞれの思いがあると思いますので、彼ら彼女らの言う「スポーツの力」の意味はまだ見つかりません。

しかし、少なくとも政府関係者から「スポーツの力」なるキーワードが出たときの解釈の指針が与えられたことで、安堵している次第です。いやすっきり。

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